2018年 11月

江崎禎英著「社会は変えられる」を読んで
一般社団法人 次世代薬局研究会2025 理 事 服部孝廣

江崎禎英著「社会は変えられる」という書物が話題を呼んでいる。
著者、江崎禎英氏は、厚生労働省、医政局統括調整官と内閣官房、健康医療戦略室次長を兼務する経済産業省 商務・サービスグループ政策統括調整統括官で現役の経産省官僚である。
本書の構成は、第1章「問題の本質を問い直す」、第2章「時代に合わなくなった社会保障制度」、第3章「社会は変えられる」、第4章「世界があこがれる日本へ」という4章からなっている。
本書は、「世界に冠たる」国民皆保険制度が、誕生から60年の時を経て急速な「高齢化」の進展とともに機能不全に陥り、「終焉」の危機にさらされているとしたうえで、この問題を単なる医療や医療費問題として取り上げるのではなく、21世紀という時代とその社会の在り方を明らかにすることを通じて、国民皆保険制度の果たしてきた歴史的役割とその問題点を明確にするとともに、解決への道筋を明快に示している。
多くの方々にご一読いただきたい書である。

「私たちは何を間違えているのか」に始まる第1章の4つのサブテーマには、それぞれ「高齢化は対策すべき課題なのか」、「日本の国民皆保険は奇跡の制度」、「疾患の性質変化を踏まえて」、「役割と生きがいを持ち続けられる社会へ」というサブタイトルがつけられ、第2章以下の各章の論点が簡潔に整理されている。
また、「時代に合わなくなった制度、業界の常識への挑戦」というサブタイトルがつけられた第3章では著者が行政官として携わった多方面の政策課題の解決に向けた挑戦とその経験や教訓がまとめられている。

印象に残った部分をかいつまんで整理してみたい。
本書では、まず日本の社会保障制度、とりわけ日本の医療を支える「国民皆保険制度」が危機的な状況あるとその現状を明快に指摘したうえで、この問題を「対策」の問題として取り上げるのではなく、「超高齢社会」こそ、21世紀という時代の歴史的テーマであるとして取り上げ、「超高齢社会」とはどのような社会なのかを解明することによって、求められる社会保障制度とその在り方の解明に迫っている。
著者は、21世紀は地球的規模で超高齢化が進む当たり前の社会であり、日本が最初にその試練に直面しているに過ぎないこと。生物学的にも高齢化は必然であり、「高齢化」は対策すべき課題などではなく、むしろ高齢社会は喜んで受け入れるべき現実であり、「健康長寿社会」の実現こそが人類に与えられた21世紀の課題であるとして、その「仕組み」作りの重要性を説いている。
そして、「超高齢社会」の目標は「健康長寿社会」に置かれるべきであるとし、高齢者が社会から疎外され単に「余生」を送るだけの寂しい社会の現実こそが高齢者の「自立度」の低下と医療費の増大を招いていることを示したうえで、高齢者に社会的役割と自由が確保され、高齢者がその存在意義を感じて自律した生活が送れる「高齢者活躍」社会の仕組みづくりが「健康長寿社会」不可欠の条件であると指摘。国民皆保険制度、介護保険制度を単なる「長寿」や「支援」の手段とするのではなく、この「健康長寿社会」を下支えするものとして位置づけ、高齢者が生涯自立して活躍できる「健康長寿社会」を支える重要な制度として機能させることを提起している。
また、医療サービスについては、国民皆保険制度が誕生した当時と比較し、感染症に代表される外因性の疾患などが大きく減少する一方で、老化や生活習慣に起因する内因性の疾患が大きく増加していること、これらにより「治療」と並んで潜在的な患者の早期発見や予防がより重要なテーマになっていると指摘し、医療の役割の面では「予防」や「健康管理」に重点を置く「患者をもっと幸せにする医療」の推進を求めている。
医師の役割につても言及。こうした医療の変化に対応して、医師は「治す」ことから「導く」ことへとその役割をシフトさせざるを得ず、「かかりつけ医」が地域住民の健康状態を継続的にフォロー、適切な指導による発症予防に貢献することに期待。診療報酬についてもDPC(疾病群別包括払い制)と並んで治療成果に着目したペイ・パーフォーマンスの導入や患者の生活管理の評価にも言及し、病名が付かなければ使えない医療保険は片手落ちだとし、予防に民間保険の活用なども提案している。
著者は、公的保険による医療サービスの提供にプラスして健康管理に取り組みやすい環境を整備し、公的保険が適切に運用される前提条件が整備されるなら、「世界に冠たる」国民皆保険制度の良い部分を残しつつ、その“沈没回避”は可能とし、「健康長寿境社会」の実現に向けた道筋を明らかにしている。

平成15年に「医療提供体制の改革ビジョン」が厚労省から発表されてからすでに15年が経過した。
「改革ビジョン」の発表以降、厚労省を中心にその各テーマと課題の検討がおこなわれ、8次にわたる医療法の改正や介護保険法の整備を通じて順次実施に移されてきた。
医療保険法の改正により、地域医療連携推進法人制度が新たに発足し、「地域医療連携と地域包括ケアの充実」の実現に向けて強力に推進される状況も生まれ、「質の高い効率的な医療」の提供を目指して整備されてきた様々な仕組みやサービスの効率的で総合的な運用も求められている。またフリーアクセスと出来高払いを柱とする医療保険制度の改革は既に避けて通れないテーマとなっている。
このようななかで、著者は健康管理に取り組みやすい社会環境を整えることこそが公的保険制度が適切に運用される前提条件であるとし、健康管理が国民皆保険制度を支える必須の条件としている。「健康長寿社会」は、自律が求められる社会であり、医療・介護の世界では、セルフケアとセルフメディケーションが基礎になる社会でもある。
調剤、医薬品の供給、薬事衛生の分野をとおして健康管理に貢献する薬局・薬剤師にとって、「健康長寿社会」は新たな活躍のステージを提供するものでもある。
「社会はかえられる」と題する、医療保険制度の改革プランは早晩具体化が予想される性格のものであり、「超高齢社会」への「対応」は、まさに薬局と薬剤師にとって焦眉の課題になっているといえる。

 

 

■テーマ
「次世代の薬局・薬剤師像を探る」-勝ち残りのために、いま何をなすべきか―  

主 催: 一般社団法人 次世代薬局研究会2025
日 時 : 2018年12 月9日 (日) 13︰30 ~ 17 :00 (開場13:00~)
会 場 : 中小企業会館9階講堂(東京都中央区銀座2丁目10−18)※裏面地図参照42回2025セミナーのご案内
参加費 : 一般参加=5000円  次世代薬局研究会2025会員(1社3名まで)&薬学生=無料

講演① 13:30~14:50
薬機法改正論議と今後の薬局・薬剤師像を探る
―薬局と調剤の位置付け、薬局機能分類、オンライン服薬指導、ガバナンス―
講師:藤田 道男(一般社団法人次世代薬局研究会2025代表)

講演②15:00~16:30
地域包括ケアシステムにおける薬局・薬剤師の役割
―分業バッシングからの脱却―
講師:中井 清人氏(厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課課長)

■ ポイント
薬機法改正論議では投与後のフォローも含めた調剤業務のあり方、連携、薬局機能分化、オンライン服薬指導などが論議されており、従来の薬局スタイルが一変する可能性があります。
セミナーでは薬機法改正の影響と近未来に向けた薬局・薬剤師への期待と具体的な対応策を提示します。
分業の費用対効果への疑念、調剤バッシング等、薬局・薬剤師業務に対する厳しい視線が投げかけられ、業務の質的転換が求められています。同時に、地域包括ケアシステムが構築される2025年、高齢者人口が最大となる2040年に向けた環境整備も急がれます。この時に当たり、薬局・薬剤師が地域の中で確固たる存在価値を示すために何をなすべきか―。
中井氏には行政の立場から熱いメッセージを頂きます。

■ 講師プロフィール
中井清人(なかい・きよひと) 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長
1990年厚生労働省入省、2004年保険局医療課課長補佐、2006年医薬品医療機器総合機構優先審査調整役・新薬審査第二部審査役、2010年医薬食品局総務課課長補佐、2012年薬事企画官、2013年医薬情報室長。2017年7月から現職。

■お申込み方法
下記メールへ、セミナータイトル・所属・参加者名・連絡先(電話・メールアドレス)等をご記入の上、お申し込みください。
メール 0813fujita@catv296.ne.jp
または mct.miyamoto@hyper.ocn.ne.jp
ホームページ http://jisedai2025.jpの【セミナー申込】からのお申し込みもできます。

『調剤指針』の新旧比較をしてみたら……
一般社団法人 次世代薬局研究会2025 副代表理事 宮本光雄

2018年夏、『第十四改訂 調剤指針』(日本薬剤師会編)が発行された。薬剤師業務のパラダイムシフトといわれた『第十三改訂』から7年ぶりの改訂である。
この間に医薬業界では、少子・超高齢化社会の進展に合わせ2025年をめどにした地域包括ケアシステムの構築、厚労省による「患者のための薬局ビジョン」の策定、健康サポート薬局制度の開始などのほか、14年度、16年度、18年度と3回の診療報酬改定が実施され、なかでも16年度改定では「かかりつけ薬剤師」の評価が新設されるなど、薬局を取り巻く環境は激変の時代を迎えている。
そこで行ってみたのが『第十四改訂』と『第十三改訂』との新旧比較だ。内容的にどう変わったのか。『第十三改訂』で根本的に改められた「調剤の概念」に変更はないが、①「かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局」(解説編:「医療における薬剤師の使命」)、② 「地域包括ケアシステム」(同左)、③ 「投薬後の患者フォローアップ」(解説編:「調剤の実際にかかわる解説」)が新たに加えられた。『第十四改訂』の改訂ポイントはこの3つに集約されるといってもよい。

薬剤交付後のフォローは薬剤師の率先テーマ
その中でも③についてふれてみる。というのも、「投薬後の患者フォローアップ」は、「薬物治療の個別最適化」と合わせてうたわれた「患者への薬剤交付後の経過観察や結果の確認を行い、薬物療法の評価と問題を把握し、医師や患者にその内容を伝達することまでを含む」という拡大化した「調剤の概念」に呼応した重要な箇所と考えられるからだ。
内容を見ると、投薬後のフォローアップ機能を発揮するためには、「患者から相談を受けやすい体制の構築が求められている」となっている。また、「(1)かかりつけ薬剤師・薬局を必要とする患者像」として、フォローアップの対象として「高齢者」をはじめ「慢性疾患患者」、「重篤または希少な疾患等を有する患者」、「妊婦、授乳婦、乳幼児等」を挙げ、体制整備の必要性を説いている。さらに、「(2)来局時以外のフォローアップ」では、「電話やメールで定期的に服用情報や副作用についての確認などを行うのが望ましい」などの方向性を打ち出している。
これらは確かに妥当な指針といえるが、交付後のフォローは患者からの相談を受けるよりも、薬剤師のほうから働きかけるテーマではないのか。それが「調剤の概念」に沿ったアクションではないか。どこか、待ちのスタンスの印象をもってしまう。少なくとも薬剤師が率先して変化を起こしていくという積極的な内容にはなっていない。

「調剤」の目的は患者を良くするために
薬剤交付後のフォローアップと医師や患者へのフィードバックは、薬局ビジョンで示された「対物業務から対人業務へ」の考え方にも通じている。『第十三改訂』で掲載された「調剤の手順」のプロセス図は、薬剤交付までに行うべき対物業務と対人業務を明確にして、対人業務の重要性をアピールした点にあった。それが『第十四改訂』では、「薬剤の交付」の次の段階に「交付後の経過観察」が書き加えられた。「調剤の実践」の項では、「薬剤を交付した後に、アドヒアランスの確認並びに有効性の評価および相互作用や副作用の有無などを確認する」となり、「その情報を今後の治療にフィードバックする」と記されている。これは『第十三改訂』のときから変わっていない。

参考→調剤の手順

細かいところにこだわるようだが、冒頭の「調剤の実践」の項では、明らかに「有効性の評価」が薬剤師の仕事として記載されているのに、「投薬後の患者フォローアップ」の項では、「薬を投薬後も服薬状況や副作用の初期症状の確認……」となっていて、「有効性の評価」の言葉が消えてしまっている。薬剤交付後のフォローアップの実践は、これからの薬剤師が軸を移すべき対人業務であり、服薬状況や副作用の有無の確認だけでなく、「有効性の評価」が重要である。薬を服用した患者がどうなったのか、症状が改善したのか、変わらないのか、悪化したのか、またなぜそうなったのかなどを薬学的な立場から評価し、患者と医師にフィードバックする。それは薬物治療の質改善のための実践ともいえる。
水野調剤薬局(当時)の水野睦郎氏は生前、調剤の目的について次のように述べている。「一般的に、調剤した薬に、服薬指導を付け加えるという考え方でした。薬剤師が処方せんを正確に調剤するだけでなく、その服み方、使い方を患者に説明しなければならないというのです。私はこの点が問題だと思いました。処方せんによる調剤の目的は、「薬を調製する」ことでなく、「患者を治す」ことだと思います。患者を治すために薬物治療をするのでしょう」
水野氏の言葉は現在も生きている。調剤の目的は「患者を治す」ことにあり、薬剤師の仕事は、薬を交付してから、薬が服用されてからが重要になるということを意味している。