コラム・江崎禎英著「社会は変えられる」を読んで

江崎禎英著「社会は変えられる」を読んで
一般社団法人 次世代薬局研究会2025 理 事 服部孝廣

江崎禎英著「社会は変えられる」という書物が話題を呼んでいる。
著者、江崎禎英氏は、厚生労働省、医政局統括調整官と内閣官房、健康医療戦略室次長を兼務する経済産業省 商務・サービスグループ政策統括調整統括官で現役の経産省官僚である。
本書の構成は、第1章「問題の本質を問い直す」、第2章「時代に合わなくなった社会保障制度」、第3章「社会は変えられる」、第4章「世界があこがれる日本へ」という4章からなっている。
本書は、「世界に冠たる」国民皆保険制度が、誕生から60年の時を経て急速な「高齢化」の進展とともに機能不全に陥り、「終焉」の危機にさらされているとしたうえで、この問題を単なる医療や医療費問題として取り上げるのではなく、21世紀という時代とその社会の在り方を明らかにすることを通じて、国民皆保険制度の果たしてきた歴史的役割とその問題点を明確にするとともに、解決への道筋を明快に示している。
多くの方々にご一読いただきたい書である。

「私たちは何を間違えているのか」に始まる第1章の4つのサブテーマには、それぞれ「高齢化は対策すべき課題なのか」、「日本の国民皆保険は奇跡の制度」、「疾患の性質変化を踏まえて」、「役割と生きがいを持ち続けられる社会へ」というサブタイトルがつけられ、第2章以下の各章の論点が簡潔に整理されている。
また、「時代に合わなくなった制度、業界の常識への挑戦」というサブタイトルがつけられた第3章では著者が行政官として携わった多方面の政策課題の解決に向けた挑戦とその経験や教訓がまとめられている。

印象に残った部分をかいつまんで整理してみたい。
本書では、まず日本の社会保障制度、とりわけ日本の医療を支える「国民皆保険制度」が危機的な状況あるとその現状を明快に指摘したうえで、この問題を「対策」の問題として取り上げるのではなく、「超高齢社会」こそ、21世紀という時代の歴史的テーマであるとして取り上げ、「超高齢社会」とはどのような社会なのかを解明することによって、求められる社会保障制度とその在り方の解明に迫っている。
著者は、21世紀は地球的規模で超高齢化が進む当たり前の社会であり、日本が最初にその試練に直面しているに過ぎないこと。生物学的にも高齢化は必然であり、「高齢化」は対策すべき課題などではなく、むしろ高齢社会は喜んで受け入れるべき現実であり、「健康長寿社会」の実現こそが人類に与えられた21世紀の課題であるとして、その「仕組み」作りの重要性を説いている。
そして、「超高齢社会」の目標は「健康長寿社会」に置かれるべきであるとし、高齢者が社会から疎外され単に「余生」を送るだけの寂しい社会の現実こそが高齢者の「自立度」の低下と医療費の増大を招いていることを示したうえで、高齢者に社会的役割と自由が確保され、高齢者がその存在意義を感じて自律した生活が送れる「高齢者活躍」社会の仕組みづくりが「健康長寿社会」不可欠の条件であると指摘。国民皆保険制度、介護保険制度を単なる「長寿」や「支援」の手段とするのではなく、この「健康長寿社会」を下支えするものとして位置づけ、高齢者が生涯自立して活躍できる「健康長寿社会」を支える重要な制度として機能させることを提起している。
また、医療サービスについては、国民皆保険制度が誕生した当時と比較し、感染症に代表される外因性の疾患などが大きく減少する一方で、老化や生活習慣に起因する内因性の疾患が大きく増加していること、これらにより「治療」と並んで潜在的な患者の早期発見や予防がより重要なテーマになっていると指摘し、医療の役割の面では「予防」や「健康管理」に重点を置く「患者をもっと幸せにする医療」の推進を求めている。
医師の役割につても言及。こうした医療の変化に対応して、医師は「治す」ことから「導く」ことへとその役割をシフトさせざるを得ず、「かかりつけ医」が地域住民の健康状態を継続的にフォロー、適切な指導による発症予防に貢献することに期待。診療報酬についてもDPC(疾病群別包括払い制)と並んで治療成果に着目したペイ・パーフォーマンスの導入や患者の生活管理の評価にも言及し、病名が付かなければ使えない医療保険は片手落ちだとし、予防に民間保険の活用なども提案している。
著者は、公的保険による医療サービスの提供にプラスして健康管理に取り組みやすい環境を整備し、公的保険が適切に運用される前提条件が整備されるなら、「世界に冠たる」国民皆保険制度の良い部分を残しつつ、その“沈没回避”は可能とし、「健康長寿境社会」の実現に向けた道筋を明らかにしている。

平成15年に「医療提供体制の改革ビジョン」が厚労省から発表されてからすでに15年が経過した。
「改革ビジョン」の発表以降、厚労省を中心にその各テーマと課題の検討がおこなわれ、8次にわたる医療法の改正や介護保険法の整備を通じて順次実施に移されてきた。
医療保険法の改正により、地域医療連携推進法人制度が新たに発足し、「地域医療連携と地域包括ケアの充実」の実現に向けて強力に推進される状況も生まれ、「質の高い効率的な医療」の提供を目指して整備されてきた様々な仕組みやサービスの効率的で総合的な運用も求められている。またフリーアクセスと出来高払いを柱とする医療保険制度の改革は既に避けて通れないテーマとなっている。
このようななかで、著者は健康管理に取り組みやすい社会環境を整えることこそが公的保険制度が適切に運用される前提条件であるとし、健康管理が国民皆保険制度を支える必須の条件としている。「健康長寿社会」は、自律が求められる社会であり、医療・介護の世界では、セルフケアとセルフメディケーションが基礎になる社会でもある。
調剤、医薬品の供給、薬事衛生の分野をとおして健康管理に貢献する薬局・薬剤師にとって、「健康長寿社会」は新たな活躍のステージを提供するものでもある。
「社会はかえられる」と題する、医療保険制度の改革プランは早晩具体化が予想される性格のものであり、「超高齢社会」への「対応」は、まさに薬局と薬剤師にとって焦眉の課題になっているといえる。

 

 

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