コラム・『調剤指針』の新旧比較をしてみたら

『調剤指針』の新旧比較をしてみたら……
一般社団法人 次世代薬局研究会2025 副代表理事 宮本光雄

2018年夏、『第十四改訂 調剤指針』(日本薬剤師会編)が発行された。薬剤師業務のパラダイムシフトといわれた『第十三改訂』から7年ぶりの改訂である。
この間に医薬業界では、少子・超高齢化社会の進展に合わせ2025年をめどにした地域包括ケアシステムの構築、厚労省による「患者のための薬局ビジョン」の策定、健康サポート薬局制度の開始などのほか、14年度、16年度、18年度と3回の診療報酬改定が実施され、なかでも16年度改定では「かかりつけ薬剤師」の評価が新設されるなど、薬局を取り巻く環境は激変の時代を迎えている。
そこで行ってみたのが『第十四改訂』と『第十三改訂』との新旧比較だ。内容的にどう変わったのか。『第十三改訂』で根本的に改められた「調剤の概念」に変更はないが、①「かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局」(解説編:「医療における薬剤師の使命」)、② 「地域包括ケアシステム」(同左)、③ 「投薬後の患者フォローアップ」(解説編:「調剤の実際にかかわる解説」)が新たに加えられた。『第十四改訂』の改訂ポイントはこの3つに集約されるといってもよい。

薬剤交付後のフォローは薬剤師の率先テーマ
その中でも③についてふれてみる。というのも、「投薬後の患者フォローアップ」は、「薬物治療の個別最適化」と合わせてうたわれた「患者への薬剤交付後の経過観察や結果の確認を行い、薬物療法の評価と問題を把握し、医師や患者にその内容を伝達することまでを含む」という拡大化した「調剤の概念」に呼応した重要な箇所と考えられるからだ。
内容を見ると、投薬後のフォローアップ機能を発揮するためには、「患者から相談を受けやすい体制の構築が求められている」となっている。また、「(1)かかりつけ薬剤師・薬局を必要とする患者像」として、フォローアップの対象として「高齢者」をはじめ「慢性疾患患者」、「重篤または希少な疾患等を有する患者」、「妊婦、授乳婦、乳幼児等」を挙げ、体制整備の必要性を説いている。さらに、「(2)来局時以外のフォローアップ」では、「電話やメールで定期的に服用情報や副作用についての確認などを行うのが望ましい」などの方向性を打ち出している。
これらは確かに妥当な指針といえるが、交付後のフォローは患者からの相談を受けるよりも、薬剤師のほうから働きかけるテーマではないのか。それが「調剤の概念」に沿ったアクションではないか。どこか、待ちのスタンスの印象をもってしまう。少なくとも薬剤師が率先して変化を起こしていくという積極的な内容にはなっていない。

「調剤」の目的は患者を良くするために
薬剤交付後のフォローアップと医師や患者へのフィードバックは、薬局ビジョンで示された「対物業務から対人業務へ」の考え方にも通じている。『第十三改訂』で掲載された「調剤の手順」のプロセス図は、薬剤交付までに行うべき対物業務と対人業務を明確にして、対人業務の重要性をアピールした点にあった。それが『第十四改訂』では、「薬剤の交付」の次の段階に「交付後の経過観察」が書き加えられた。「調剤の実践」の項では、「薬剤を交付した後に、アドヒアランスの確認並びに有効性の評価および相互作用や副作用の有無などを確認する」となり、「その情報を今後の治療にフィードバックする」と記されている。これは『第十三改訂』のときから変わっていない。

参考→調剤の手順

細かいところにこだわるようだが、冒頭の「調剤の実践」の項では、明らかに「有効性の評価」が薬剤師の仕事として記載されているのに、「投薬後の患者フォローアップ」の項では、「薬を投薬後も服薬状況や副作用の初期症状の確認……」となっていて、「有効性の評価」の言葉が消えてしまっている。薬剤交付後のフォローアップの実践は、これからの薬剤師が軸を移すべき対人業務であり、服薬状況や副作用の有無の確認だけでなく、「有効性の評価」が重要である。薬を服用した患者がどうなったのか、症状が改善したのか、変わらないのか、悪化したのか、またなぜそうなったのかなどを薬学的な立場から評価し、患者と医師にフィードバックする。それは薬物治療の質改善のための実践ともいえる。
水野調剤薬局(当時)の水野睦郎氏は生前、調剤の目的について次のように述べている。「一般的に、調剤した薬に、服薬指導を付け加えるという考え方でした。薬剤師が処方せんを正確に調剤するだけでなく、その服み方、使い方を患者に説明しなければならないというのです。私はこの点が問題だと思いました。処方せんによる調剤の目的は、「薬を調製する」ことでなく、「患者を治す」ことだと思います。患者を治すために薬物治療をするのでしょう」
水野氏の言葉は現在も生きている。調剤の目的は「患者を治す」ことにあり、薬剤師の仕事は、薬を交付してから、薬が服用されてからが重要になるということを意味している。